ビーガンと避難生活
Lさんの運転で着いたのは彼女の家でした。
そこで現地のおじいちゃん、おばあちゃんご夫婦と住んでいるのだということでした。
彼女はまず私に温かい食事を振舞ってくれました。
トマトソースのパスタ。
ありふれた料理かもしれませんが、私にとっては久しぶりの馴染みのある手料理でした。
お腹がじんっと温かくなって、自然と涙が流れてきました。
とても、おいしかったのを覚えています。
彼女は私と少し違った形ですが、強いこだわりをもっています。そのため、私の気持ちに寄り添ってくれました。
ゆっくり話を聞いてくれ、なだめ、慰めてくれました。
そして、彼女は自分の弱い部分を晒してもくれました。
彼女は徹底したビーガンでした。
以前、触れたことのある完全菜食主義者は彼女のことです。
とある牧場で家畜がひどい扱いを受けているのを見て、食肉に対して拒絶反応が現れたことがはじまりだと言います。
最初は肉だけ食べないベジタリアンをしていたそうですが、段々と魚、卵、ついには牛乳を使うことさえ躊躇うようになったそうです。
それらに触れることも苦手な彼女は野菜と果物以外を調理した器具を扱えないので、自分のものはきっちり分けているらしいのです。
土が苦手な私と何か通じるものがあると感じました。
砂が触れない私と肉魚に触れないLさん。
お互いにトラウマに囚われて、振り回されて、疲れながらも生きています。
これは多くの人に共通している部分もあるのではないでしょうか。
何かに取り憑かれたように、ずっと頭から離れない観念があって、自分でも段々とその理由がわからなくなっても、ひたすらに固執し続けるものがあるという方も少なくないんじゃないでしょうか。
それでも、私たちには便利な道具があります。
私の場合はウェットティッシュです。
汚いと感じたら、サッと拭いてしまいます。
Lさんの場合は完全に肉を使っていないソーセージなどの模造品や豆乳。
レシピ本に載っていても使えないものの代用品にできます。
私たちは日々、戦いながら葛藤しながらも妥協点を見つけています。
ゆっくりと食事を終えて、Lさんは私を寝室に案内してくれました。
彼女の家も土足禁止なので私にはありがたい限りでした。
私は久しぶりの安心に満ちた夜を迎えることができたのでした。
朝、この日は金曜日だったので私たちは学校に行かねばなりませんでした。
小雨が降っていたと思います。
私はLさんとタクシーに乗りました。その日の宿も決まっていませんでしたが、私の荷物をすべて持って行きました。
重い気持ちで授業を受け、私がLさんを訪ねると、まだ滞在先は決まっていませんでした。
受け入れ先は見つかったものの、さすがにすぐにというわけにはいきません。
結局、その日から3日間はホテルに住むことになりました。
それでも、やっと休めると思うと心が軽くなりました。